はじめに ~地方創生とSDGs~
地方創生やSDGsという言葉はずいぶんと浸透してきたかと思いますが、ローカルSDGs、地域循環共生圏はSDGsより後に生まれた言葉であるので、まだまだ聞いたことがない人も多いかと思います。
本記事ではローカルSDGsや地域循環共生圏についてお話させていただこうと思います。その前に地方創生とSDGsの関係性について軽く説明します。
地方から東京圏等の都市部へ人口移動が進んだ結果、地域の人口減少と地域経済の縮小が拡大しました。その状況を打開するべく2014年に成立した「まち・ひと・しごと創生法」により、まち・ひと・しごと創生総合戦略を策定し、地方創生を推進することとなりました。
持続可能なまちづくりや地域活性化を推進するべく、地方創生にSDGsの理念を取り組むことで、より地方を活性化させることが目的となります。
内閣府においては、SDGsを推進する自治体を「SDGs未来都市」として選定し、その中でも先進的な取り組みを行っていると認められた自治体が「自治体SDGsモデル事業」として選定されます。
地域循環共生圏 ~ローカルSDGsとは~
このように地方創生とSDGsにより、地域の課題解決に取り組む流れが加速する中、新たに地域循環共生圏 ~ローカルSDGs~という考え方が生まれました。
地域循環共生圏とは
各地域が有する美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、環境・経済・社会が統合的に循環し、地域の活力を最大限に発揮することを目指す考え方です。
地域内での経済や様々な資源等を循環させ特定のエリアに依存することなく、自立した圏域を築き上げることと解釈することができそうです。各地域が自立することができたならば、大規模災害等の有事の事態でも経済・社会活動を維持が可能となります。分散型であるまちが増えると持続可能性及びレジリエンス(回復・復元力、しなやかさ)が高いまちが増える結果をもたらします。
このように地域各々が経済・社会・環境面で統合し、持続可能な自立したまちを目指すことが、すなわち、地域におけるSDGsの実践=ローカルSDGsと言いかえることができるでしょう。
その結果、地域の独自の文化を活かした多種多様なまちが増えるのではないでしょうか。
地域循環共生圏のポイント
✅「第5次環境基本計画」で提唱された考え方で2018年の4月に閣議決定されました。
✅「日本発の脱炭素化・SDGs構想」であり日本の独自的文化や地理的特性を取り入れた構想となっています。
✅日本青年会議所と「SDGsパートナー宣言」を取り交わしています。
参考:第5次環境基本計画の概要
①持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築
②国土のストックとしての価値の向上
③地域資源を活用した持続可能な地域づくり
④健康で心豊かな暮らしの実現
⑤持続可能性を支える技術の開発・普及
⑥国際貢献による我が国のリーダーシップの発揮と戦略的パートナーシップの構築
地域循環共生圏のイメージ図
地域循環共生圏の3つのキーワード
✅自立分散(オーナーシップ)
✅相互連携(ネットワーク)
✅循環・共生(サスティナブル)
地域循環共生圏とは日本初の脱炭素化・SDGs構想を示したものであり、地域において新たな価値とビジネスを創出する地方創生のビジョンの一つです。
「サイバー空間とフィジカル空間の融合により、地域から人と自然のポテンシャルを引き出す生命系システム。」とも名付けられており、サイバー空間とフィジカルの関係性を示した考えはSociety5.0の中で提唱されています。地域循環共生圏を推進するためにはsociety5.0の取り組みも理解しておくとよいでしょう。society5.0とSDGsの関係は拡大版SDGsアクションプラン2019(SDGs推進本部:内閣総理大臣を中心としたチーム)等で触れられています。
Society5.0とは
拡大版SDGsアクションプラン2019(SDGs推進本部)
※SDGsアクションプラン2021(PDF版)はこちらから閲覧できます。
地域循環共生圏の意義と目指すべき方向性
地域循環共生圏を推進していく上で注目をされているのが里地里山及び里海です。
地方創生においては、都市と地方の二項対立のように思われてしまいがちですが、対立関係を煽ることが双方の利益につながるわけではなく、都市と地方の双方がWin-Winとなる新たな関係性が模索され始めています。
地域循環共生圏における都市と地方の関係性のポイントは3つ挙げられています。
1.自然的なつながり(森・里・川・海)や経済的つながり(人・資金等)をパートナーシップで構築。
2.都市と農村漁村が相互補完によって相乗効果を生み出しながら経済社会活動を行う「地域循環共生圏」の創造。
3.環境・経済・社会の統合的発展を果たし持続可能な地域の実現。
拠点に縛られない新しいライフスタイル
地方から都市に移り住むライフスタイルもあれば、多拠点生活として地方も居住地の一つとして自由に行き来したり、アドレスホッパーやノマドワーカーのように自由に居住地を変える生活を送っている方もいます。
分散型社会への移行
社会の構造としても都会に一極集中すると大規模災害や有事が発生した場合に日本の機能が停止しかねません。地産地消型で自立・分散型の里地里山が各地にあることでリスク分散にもつながりますし、地域独自の文化や経済を発展させることもできるかもしれません。
上記の図が示すとおり、個人及び企業ベースではSDGsを普及啓発していく取り組みが「森里川海プロジェクト」であり、その個別取り組みを表彰するのが「グッドライフアワード」ということですね。SDGsを活用して地域をイノベーションしていくためにはパートナーシップの構築が必須となりますが、「地域循環共生圏づくりプラットフォーム」にてプラットフォームを構築することでSDGsの推進体制を整える仕組みとなっています。
地域循環共生圏を推進することで、実現できることや生み出されるコンテンツ。
健康と自然のつながりを感じる「ライフスタイル」
・「モノ消費」から「コト消費」へのシフトで健康と豊かさと楽しさを得る。
・ストックとしての豊かな自然とその恵みでグッドライフを送る
・共感及び感動創造(文化・芸術・歴史・スポーツ)
人に優しく魅力ある「移動・交通」システム
・安心と利便性で高齢者や子育て世代に優しい移動手段
・地域の魅力を引き出す交通システム
災害に強いまちづくり
・災害時でも安心感のあるインフラ、エネルギーシステム
・防災インフラと自然の防災力の相乗効果
・気候変動影響による被害の回避、軽減(適応)
多様なビジネスの創出
・地域経営型のエネルギービジネス、地域資源活用型観光ビジネス
・地域課題解決型のビジネス(既存施設や耕作放棄地等の活用によるビジネス拠点化、観光資源化、地域教育、地域人材育成)
・地域金融、ESG金融、地域ファンドによるビジネス支援
自律分散型の「エネルギー」システム
・地域再エネビジネスを支えるシステム
・エネルギーの地産地消と地域間融通
地域循環共生圏を推進するための仕組み
地域循環共生圏を推進したくても、ただ考え方を示しただけではなかなか誰も取り組んでくれないでしょうし、どうやって始めたらよいのかもわからないかもしれません。しかし、地域循環共生圏を推進するために様々な仕組みがちゃんと用意されていますので、ここでは4つご紹介させていただきたいと思います。
地域循環共生圏づくりプラットフォーム
地域循環共生圏を創造していくためには、環境・経済・社会の統合的向上を実現する事業を生み出し続けることが必要不可欠となります。
個人や企業が単独で取り組むだけでは地域循環共生圏に対応するコンテンツの継続的な創造が難しいために、地域の核となるステークホルダーの組織化。そして、運動の起点となるプラットフォームが必要となります。
そこで環境省においては「地域循環共生圏づくりプラットフォーム」の仕組みをつくり、その中で「情報提供」「学ぶ機会」「マッチング」「ESG地域金融」の推進を行いローカルSDGsを推進しています。企業等登録制度もありますので、興味がある企業の方は登録してみてはいかがでしょうか。
森里川海プロジェクト
さらに、環境省においては「森里川海プロジェクト」を提唱。地域循環共生圏は地域全体のSDGsのビジョンであり、森里川海プロジェクトは個人や企業ごとに落とし込んだアクションを示しています。
森里川海プロジェクトの概要
「森里川海を豊かに保ち、その恵みを引き出すこと」
「一人一人が、森里川海の恵みを支える社会をつくること」
グッドライフアワード
環境に優しい社会の実現を目指し、「環境と社会によい暮らし」に関わる活動や取組を募集して紹介、表彰をしています。
情報交換を推進するためのプロジェクトです。
分散型エネルギープラットフォーム
地域循環共生圏においては自立・分散型エネルギーシステムの構築も重要だと言われています。
環境省と資源エネルギー庁が共同で取組事例の共有や課題についての議論等を行う場として「分散型エネルギープラットフォーム」を開催しています。
地域循環共生圏を推進するための4つの仕組みをご紹介させてもらいました。まだまだ他にも地域独自の取り組みなどがあるかもしれません。それぞれの地域の様々な個人や団体、企業等が積極的にプラットフォームに参画することでつながりや事例の共有が進むと思います。このような動きが各地で活発化しローカルSDGsがより一層推進されるとよいですね。
まとめ
本記事では地域循環共生圏~ローカルSDGs~について紹介させていただきました。SDGsを活用した地方創生を推進するためのビジョンとして重要な位置づけであることが確認できたと思います。
自立・分散型のまちづくりとして、地域内で循環した経済・社会・環境の統合を目指しつつも、都市と地方の新たな関係作りやパートナーシップを構築することで双方にWin-Winの関係をもたらすことも可能となります。
地域循環共生圏~ローカルSDGs~の推進により、地域の持続可能性の向上が実現できることでしょう。